1:ゲーム人口の増加と、高まるSNSでの関心
最初に、日本におけるゲーム人口の実態について、政府や企業が発表している調査結果を確認します。
総務省による「令和3年社会生活基本調査」によると、趣味・娯楽の中でゲームをする人の割合は、2016年から2021年の5年間で7.1%上昇し、42.9%となっています。
また、株式会社角川アスキー総合研究所による調査では2022年の国内ゲーム人口は5400万人であると報告されています。
RoomClipのデータを参照しても、やはりゲームへの関心度の上昇が伺えます。
上図は「ゲーム」というキーワードを含む検索水準の年推移ですが、増加し続けていることがわかります。
また、投稿の推移を見てみると、特にゲームのための環境に関する投稿が増えていることがわかりました。ゲームそのものにとどまらず、周辺の環境整備に目が向けられていることが伺えます。
こちらは「ゲーミングPC」「ゲーミングデスク」「ゲーミングチェア」といった、ゲームにまつわるアイテムに関する、タグの投稿水準を年毎に表したものです。
特に2019年から2020年の上昇率が顕著で、これはコロナ禍によるイエナカ活動の充実化においてゲームが人気アクティビティの一つとなったことが関係していると思われます。
2:ファミリーで。一人で。パートナーと。5種に分類される住まいのゲーミング空間
実際にゲームにまつわる投稿を見てみると、現代の住まいにおけるゲームプレイ環境、つまりゲーミング空間は主に5つに分類が可能です。
RoomClipに投稿されている実例を交えながら、それぞれの特徴について紹介します。
1. ファミリーリビング型
1983年にファミコンが登場した当時から現在に至るまで、広く見られる形式が「ファミリーリビング型」です。
家庭用ゲーム機は元々ファミリーを対象に販売されていたこと、また、日本の家庭においてテレビは居間やリビングに一台あるというのが一般的だったため、自然とこの形式が定着しました。
最近ではコロナ禍の「宅トレ」ブームと共に流行した体感型ゲームの影響もあり、テレビ前のスペースを広くとるレイアウトノウハウも、派生型として誕生しています。また、周辺機器が増えるにつれて悩みの種となってくるそれらの収納方法に関しても、工夫やアイディアが発信されています。
2. フリーアドレス型
1980年代後半に「ゲームボーイ」などの携帯型ゲーム機器が人気を博して以来、現在も見られるのが「フリーアドレス型」です。
RoomClipでは、一人ないし複数の子どもがゲーム機やスマートフォン・タブレットなどを使って思い思いの場所でプレイしている様子が度々投稿されています。
3. 没入空間型
リビングのように開けた場所ではなく、没入できる閉ざされた空間として整えられたゲーミング環境が「没入空間型」です。
専用のPC、モニター、デスク、チェア、キーボード、ボイスチャットのためのマイク、配信のためのカメラなどの機器に加え、色鮮やかな照明デコレーションによって構成された、ゲームの世界観を反映するようなサイバー感を印象づけるスタイルが近頃のトレンドです。
この形式のゲーミング環境を持つのは一人暮らし層が中心で、2010年代は特にプロフィール上男性による投稿が主でした。最近は主流のサイバーなスタイルから派生して、よりシンプルなスタイルや、ピンクなどを多用した可愛らしいカラーやデザインでまとめらている部屋も増えており、女性による投稿も目立ちます。
4. 多目的コーナー型
「多目的コーナー型」は、寝室や仕事部屋、趣味部屋、はたまたヌックなどの空間とゲーミング環境が融合している多目的な部屋です。
没入空間型同様に閉ざされた空間であっても、同タイプと比べてシンプルなインテリアでつくられるケースが散見されます。この形式は一人暮らしの他、ファミリー層で取り入れられているケースも多いのが特徴です。
5. ゲーマーカップル型
一つの部屋にゲーミング環境を複数並べるのが「ゲーマーカップル型」です。
同棲カップルやDINKS、ファミリー層の住宅で見られます。「ゲーミングリビング」という象徴的なキーワードからもわかるように、リビングのように開けた場所であってもファミリーで一つのゲームを一緒に楽しむためではなく、並んで会話は楽しみつつ各々が好きなゲームで遊んだり、時にはオンライン上で同じゲームを遊ぶことを目的としてつくられているのが最大の特徴です。
インテリアスタイルは多目的コーナー型と同じく多様で、いずれもゲームの世界観よりも、日常のライフスタイルを反映する形で構築されているようです。
3:多様化するゲーミング環境と「ゲーマーカップル型」の誕生
前章ではRoomClipに集まった投稿実例から、SNSで見られるゲーミング空間を5種に分類しました。改めてそれらを図にまとめると、以下のようになります。
縦軸はプレイする人が「複数」か「一人」かを示し、横軸は日常で費やすゲーム時間の長さによって「ライト層」か「コア層」かを示します。「ライト層」「コア層」は近年SNSを中心に通称「エンジョイ勢」「ガチ勢」と呼ばれるケースも多いです。
「ファミリーリビング型」「フリーアドレス型」「多目的コーナー型」「没入空間型」は、細かく見ていくと変化やトレンド、派生型が出現しているものの、形式としては2010年代のSNS普及以前より存在していました。
一方で「ゲーマーカップル型」は、近年見られるようになった形式です。
このようなゲーミング環境の多様化が進む背景と、特に新鮮な印象を与える「ゲーマーカップル型」の誕生背景について考察します。
ゲーミング環境の多様化が進む背景
近年ゲーミング環境の多様化がさらに進んでいる背景には、ゲームタイトルのマルチプラットフォーム/クロスプラットフォーム化によって起きたゲームプレイヤーのライト層とコア層のクロスオーバー、そして若年層への影響力拡大が挙げられます。
もともと、ゲームプレイヤーのライト層とコア層は、ゲームのプラットフォームとハードによってある程度の棲み分けがされていました。「みずほ銀行 コンテンツ産業の展望 第5章 ゲーム産業」にて紹介された上図がこのことを分かりやすく図解しています。
コア層になるほどPCで、反対にライト層ほど家庭用ゲーム機やスマートフォンでプレイすることがわかります。
しかし、2010年代に入ってからゲームのマルチプラットフォーム/クロスプラットフォーム化が進みます。これはハードの縛りをなくしたプラットフォーム連携機能を意味し、これによりハードの垣根を超えてゲームタイトルがプレイできたり、セーブデータが共有できるようになりました。従来の常識だった「このゲームをプレイしたければ、このハードを所有していないといけない」という制約が解消されたことで、これまで家庭用ゲーム機でプレイしていたライト層と、PCでプレイしていたコア層が同じゲームタイトルを楽しむようになっただけでなく、対戦や協力プレイなども可能になりました。
かつて見られていた「棲み分け」の境界線が非常に薄くなった、というわけです。
また、YouTubeなどの動画コンテンツプラットフォームでは主にコア層が発信元となる、ゲーム実況コンテンツが人気を集めています。特に子どもをはじめ若い世代でゲーム関連動画の人気は顕著で、LINEが行った2022年の調査でも10代・20代ともに「よく見るYouTubeのジャンル」としてゲームが2位にランクインしていることが分かります。
ゲームの認知経路に関しても、10代はその半数近くが「ゲーム実況」を占めているという三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる調査結果もあります。
実際にRoomClipでゲームにまつわる投稿を見ても「子どもに頼まれてゲーミング環境を整えた」といった趣旨の投稿やコメントを度々見かけます。
このように、ゲームのマルチプラットフォーム化とゲーム実況動画の流行から端を発した認知経路の変化によって、従来ファミリーリビング型にとどまっていた可能性のある若年層を起点にゲーミング環境構築への意識が高まる構造が生まれました。
「ゲーマーカップル型」の誕生背景
RoomClipで投稿されているゲーマーカップル型のゲーミング環境は、ゲーム好きの比較的若年カップルの同棲や結婚、住宅取得のタイミングでつくられたケースが多いようです。 没入空間型の紹介で言及した、女性によるゲーム部屋の投稿が増えていることとも関連しますが、ひとつの大きな背景として世界的に見た女性ゲーマー人口の増加があります。
アメリカの市場調査/コンサル会社のNiko Partnersによる2020年の調査によると、アジアでは近年女性ゲーマーの増加率が特に著しく、2017年から2019年にかけて18.8%増加。2019 年末には、女性ゲーマーはプラットフォーム全体で5億人まで増加し、これはアジアの総ゲーム人口の38%を占めるとのことです。
日本におけるゲーマー人口の男女比を見ると、2019年の時点で46%が女性という株式会社ゲームエイジ総研による調査結果もあり、性差は小さいことがわかります。
ゲーマーの女性人口増加や多様化が進む中、カップルや夫婦でゲームが共通の趣味、というケースが増加していることは容易に想像されます。暮らしを共にするタイミングで一緒にゲーミング部屋を持つということは自然な流れなのでしょう。
多様化が進むゲーミング環境や「ゲーマーカップル型」誕生の背景には、ゲーム業界周辺で起きた時代の変化が色濃く反映されていることがわかります。
4:ゲーミング空間にとどまらず、住まいで受け入れられるゲーム文化
最後に、前章までで解説したゲーミング環境の種類とは別の話題にはなりますが、ゲームが「推し活」の人気ジャンルとしてもとらえられていることについて、少し解説します。
消費者庁の「令和4年消費者白書」によると、年齢層が若くなればなるほど「推し」に関連した消費活動を行っている人の割合は高く「とても当てはまる」と「ある程度当てはまる」を合わせると、10代後半の半数近くは推し活をしていることがわかります。また、ゲームは推し活の対象として4位にランクインしている、という
日経リサーチによる調査結果もあります。
このことを踏まえて改めてRoomClipに投稿されているゲーミング部屋を見てみると、確かにゲームキャラクターの関連グッズがディスプレイされている様子が度々伺えます。
しかも、ゲーミング部屋に限らず、様々な部屋でゲーム関連のキャラクターグッズがディスプレイされている住まいも少なくありません。
この背景には、企業のIPビジネス戦略が大きく影響していることが考えられます。
エンターテインメントで昨年大きな話題を集めたものとして「ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド」での「スーパー・ニンテンドー・ワールド」オープンや「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の世界的大ヒットが記憶に新しいと思います。
任天堂では2016年よりその経営方針として「任天堂IPに触れる人口の拡大」を掲げており、その効果が顕著に表れ出していると言えるでしょう。同社のようにグローバル規模で親子二世代に親しまれているゲームタイトルを所有する企業はそう多くありません。推し活人気やゲーム人口増加の流れに後押しされる形で、今後ますます発展を見せていくことが予想されます。
今回のレポートでは、ゲーム人口の増加とゲームビジネスの拡大によって住まいづくりにも変化が現れてきていることをお伝えしました。近年では新たなゲーム機器としてVRも注目されていて、今後、イマーシブ技術のさらなる発展によっては音や空間を分けることに対するニーズが今以上に増えるかもしれません。RoomClip住文化研究所では、今後もゲーミング環境の変化について注目していきたいと思います。